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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)1173号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を広島高等裁判所に差戻す。

理由

被告人の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のとおりである。

原判決は、被告人は法定の除外事由がないのに拘らず営利の目的で、(一)昭和二二年一二月下旬頃から昭和二三年七月下旬頃迄の間前後九回に亘り、小谷正郎から肥料硫酸アンモニア一二六叺及び硝酸アムモニア三九叺を原判示のように所定の統制額を超過した代金で買受け、(二)右同日時の間前後九回に亘り、児井喜久太外一名に対し右買受けた肥料全部を原判示のように所定の統制額を超過した代金で売渡した事実を認定した上、被告人の右(一)(二)の所為は物価統制令に違反するほか、臨時物資需給調整法一条四条肥料配給規則四条二一条等にも違反するものとして、これらの規定を適用して被告人を処罰している。しかるに、本件犯行当時施行されていた肥料配給規則四条は、単に肥料取扱業者の指定を受け得る資格を定めた規定に過ぎないのであるから、被告人の判示所為が右の規定に違反するということは問題となり得ない。また同規則二一条一項本文は、「肥料配給公団、指定業者又は消費者若しくは農業者は、割当公文書の提示がなければ、肥料を譲り渡し又は譲り受けることができない」と規定している(同条一項但書及び第二項の規定は本件の場合に全く関係がない)。それゆえ、肥料配給規則二一条の違反行為が成立するには、(一)同条に列挙された者が(二)割当公文書の提示なくして肥料を譲り渡し又は譲り受けたことを必要とするものと言わなければならない。ところが原判決は、被告人が右列挙の者に該当するかどうか並びに本件取引につき割当公文書の提示がなかったかどうかの点に触れては少しも事実を明らかにしないで被告人に同条違反の所為があったものと判断しているのである。されば、原判決には審理不尽による理由不備の違法があるか法令を不当に適用した違法があるから本件上告は理由がある。

よって、旧刑訴四四八条ノ二、四四七条に従い原判決を破棄して本件を原裁判所に差戻すべきものとし、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保)

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